ローマ字配列が愛される理由その3
さて、いよいよ本題の打鍵数である。
まずは1回目同様DovrakJPのサイトのデータをキーごとに配置し、10万字の入力に対する打鍵数(ストローク)のデータを見てみよう。
対してかなの出現頻度はこうなっている。
QWERTY配列はかな配列と比較すると打鍵数がほぼ倍となるので、10万字は約20万打鍵(ストローク)となる。本来1打ですむ筈のかなを2打で打っているのだから当然とも言えるが、そのおかげでかな入力ユーザーから「日本全体の生産性が悪化している」と言われるほど敵視されている訳だ。
上図を見ると確かにその通り。かな入力で最大数の打鍵数である「い」の6653打鍵と比較すると、「A」は25130打鍵で4倍以上となってしまっている。同じかなである「i」の23949打鍵と比較しても4倍近い。
また、左小指の打鍵数が多く右小指の打鍵数は極端に少なく、理想とする打鍵数分布からはほぼ遠い。10本の指の中でもっとも弱い小指(それも左)を酷使するのは、腱鞘炎などの恐れもある。キーレイアウトを見ても、半数以上打たなければならない母音が、打ちやすいホームポジションにA以外無く(そのAですら左小指だ)、D列に集中している。
これでは効率があがろうはずもない。
……と言ったところが主な批判ではないだろうか。そして、それは本当だろうか?
まず、キーレイアウトの問題を考えてみる。
もっとも打ちやすいキーが配置されているべきC列。だがQWERTYローマ字入力ではその恩恵に預かることはできないのだろうか?
そんなことはない。じつはローマ字入力でも、ちゃんとホームポジションは効率がよくなっているのだ。
手のひらを見て欲しい。そのまま手から力を抜くと、自然と指が曲がる。その指の先は円弧を描いてはいないだろうか?
キーボードのFに人差し指、Aに小指を置いた場合、中指と薬指の第2関節は人差し指と小指のそれより、少しだけ盛り上がってはいないだろうか?
もちろん個人差はあるだろうが、大多数の人は上記の問いにYesと答えてくれるのではないかと思う。これが何を意味しているかというと、実は中指と薬指のホームポジションはC段ではなく、D段と言えるのである。
(2016/2/2 画像修正)
改めて打鍵数のキーデータを見てほしい。QWERTYでもっともよく使われるキーが集まっているのはD段だ。本来なら、FJのホームポジションではなく、RUホームの方が理にかなっている。しかしこれはあまり良くない。なぜなら、RUに人差し指を置いてしまうと腕全体が上がってしまい、B段が押し辛くなる。そして何より、最後の母音「N」が非常に使い辛くなってしまう。
また、タイプライターが開発された当初(QWERTY以前)は、母音であるAEUIOY(Yも母音扱い)はD段に配置されていたようだ。
タイプライターからコンピュータへ:QWERTY配列の変遷100年間
このことから、タイプライターは元来D段をメインに使おうとしていたと思われる。D段はホームポジションから外れている段という訳では無く、C段とD段両方でホームポジションを形作っていると考えられる。すると上図での赤及びオレンジのキーはかなりの範囲をカバーすることが出来る。QWERTYの打ち易さの秘密の一つと言えるだろう。(2016/2/2一部改稿)
この項が長くなってしまった。次回はさらに打鍵数の秘密に迫ろうと思う。